政策研究大学院大学の
「政策法務演習」での知事講義

 このページは、平成17年8月6日(土)に東京にある政策研究院大学で行われた「政策法務演習」で、西川知事が、昨年の福井豪雨災害における政策判断や危機対策等の考え方に関して行った講義をまとめたものです。


【初動対応について】知事講義
住民の安全を守り安心を預かる行政にとって、災害の規模にもよりますが、長くて災害発生直後の3日までの間、場合によっては24時間、または一番大事なのは6時間ないし12時間の内に、迅速かつ効果的に対応できることが極めて重要です。
 初動における適切な対応で、死傷者の数を減らし被害を最小限度に防ぐことが可能になります。また、住民からの評価も初動対応に集中します。

(団体の対応について)
 地震や水害などの災害の初動において、災害が大きい市町村では、首長をはじめ職員のほとんどが被災者側になるため、心理的にも物理的にも対応しきれない場合が多くなります。
 国の場合は、余りに遠く時間もかかるため初動対応は難しくなります。もちろん国といっても、例えば自衛隊の各支部や消防の広域体制は別ですが。これらは、最も大きな機動力を有するいわゆる救命組織であるからです。
 初動において最も大きな能力を有するのは都道府県であり、その責務は重大です。

(仕事のスピードについて)
 次に初動における仕事のスピードですが、やはり初速を最も大きくすることが重要です。
 災害を予知したり待ちぶせすることは出来ないので、最初動では、まず遅れをとると思う方が賢明です。しかしながら、そこから先は遅れないよう、場合によっては先回りをねらうことが必要になってきます。
 誇張した表現であるかもしれませんが、行政職員には3つのクセがあるといわれています。誰かがやってくれるだろうというような待つクセ、確認をしたがるクセ、体裁のとれたペーパーを作ろうとするクセです。そのような習性は、対象が何日も何週間も動かないときは、自治体側に有利に働くかもしれませんが、災害のときは事態が早足なので全く不適当です。
 災害時、職員が仕事をする際に、外面的に冷静であるより情熱を外に出すことが必要です。言葉の使い方も、平常時にも増して、正直に、熱意を持って、明瞭、直裁に話すということが必要となります。伝える姿勢、行動の姿が重要になるのです。
 災害において特に初動に必要な心構えは次の4つです。
1つ目は、プロ・アクティブ、プロ・アクション知事講義
 できるだけ先取りして行動するということです。
 昨年の福井豪雨災害で言うと、7月18日の早朝、市内の川はまだあふれ出すというような状況ではありませんでしたが、山間部の市町村からは鉄砲水が出たなどという報告が出てきました。被災状況の詳細はわからないが、人命第一ということで、災害対策本部の会議を開く前に、ともかくヘリコプターなどを出して欲しいと自衛隊に派遣要請を行いました。
 災害時におけるこうした実働部隊への迅速な要請は不可欠です。そのためにも、躊躇なく、形式にとらわれず見込みで行うことが極めて重要になります。
 また、ボランティアについても、これだけの災害であれば、必ず全国から多数のボランティアが駆けつけてくれると考え、災害当日には県域における本部を作り、翌日から受け入れを行いました。
2つ目は和製英語ですが、オーバー・アクティブ、オーバー・アクション
 阪神・淡路大震災のときの教訓から、思い切った行動を取ることが大切だと感じました。対策とか行動は、小出しにしない。できるだけ大きく、大ブロシキで対応するということです。
 また、心理的な傾向として、災害というのは小さくあってほしいという願望を抱きがちです。最初の最も小さい数字に影響されて、災害はさほど大きくないのだと無意識に思いながら初動に当たることが意外に多いのではないかと思います。
 しかし、実際は逆であるべきで、小さくあってほしいと思いながら、フロシキはできるだけ広げる。前もって、大出しをしながら仕事をするというのが、災害対策を手抜かりなくやる方法であると考えました。
3つ目は、今の次に何をなすべきかを絶えず自問し行動するということ
 現に目の前にある対策にとらわれると、十分な対応ができないことがあります。慌しい中で、現状の方法に抜けていることがないか、鳥瞰的な視点で、注意を全体に行き渡らせることに心がけました。それには、瞬間的な自己点検が必要でした。
 例えば、見過ごされている集落がないか、地域的なアンバランスが生じていないか、全体に関心を行き渡らせるよう絶えず反省しながらやりました。
 また、火中の外の方の声を聴くことも必要です。相手も伝えたい気持ちがあるのに災害時ということで遠慮もはたらきます。こちらから電話をすることで貴重な意見が聴けるものです。
4つ目は、災害以外の仕事の仕方にたえず戻ろうとすることに注意するということ
 先ほど言った、行政職員の3つのクセは、復旧のスピードを妨げる大きな原因であると考えます。通常の公共事業の感覚でやっていては復旧はおぼつかない。2分の1、3分の1の速さでもって当たることができるはずです。

【災害対策について】

(現場主義について)知事講義
 特に幹部職員、責任者の現場主義は大切です。何より被災した住民の安心のためであり、本部における対策の有効化を図るためです。
 私自身は、できるだけ何度も現場に足を運びました。孤立した集落に自転車で行ったこともありました。被災された方に声をかけることで、先ず安心してもらいたかったからです。
 さらに、現場を直接見て被災した人に会って話しを聴くことで、本部で受ける報告の正確性の判断もできるものです。
 一般職員について言えば、被災した市や町の防災対策本部に、市町村の相談役として、複数名体制で土地勘のある職員を送りました。
 必要なことは、派遣された職員は自らのミッションを明瞭に意識し、活動しなけばなりません。本部が電話をかけないと報告がないといった、待ちのクセがおこらないようしなければならないということです。また、災害の現場は役場や公民館でも注意しなければなりません。一人は必ず被災地に行って調べることが必要です。

(最初期情報の収集システムについて)
 災害状況全体を把握する情報収集の仕組みがきちんと整っていないと感じています。
 被災地のスポット単位で人命救助をすることも重要ですが、同時に、全体を鳥瞰的に捉えることができる情報システムが必要です。迅速に全体を把握することで、結果的により多くの人を助けられることにつながるからです。
 情報収集については、警察も有効ですが組織としての独立性が強いのです。
 災害時には、消防との連携が重要となります。先ず、市町村が消防ときちんと連携をとり、かつ都道府県との連絡を密にすることで、災害対策はかなり進むと考えられます。

(危機「管理」ではなく、危機「対策」)
 私は、大災害になるほど、大きな危機は管理できないと考えています。危機を管理するなど、人間の能力では不可能だからです。だから危機管理とは言わず、危機対策と言っています。管理できるようなら、それは危機ではないでしょう。

(住民に知らせるシステム)知事講義
 最近、クライシス・コミュニケーションという言葉が使われ出しました。住民の不安感の解消、メディア側との無用のトラブルを回避するという視点を基本に、危機が発生した場合、その悪影響や被害を最小限に抑えるため、情報開示を基本に、内外のさまざまな対象に対し、適切な判断に基づく迅速なコミュニケーションをとる活動のことです。
 県民の不安感やマスコミとの摩擦などの悪影響を解消し、適切に情報開示をしながら、災害対策がしっかり進んでいることを分かってもらうといことが必要です。
 先般JR西日本の事故がありましたが、「事故原因の説明の仕方がおかしい」、「会社に責任がないような話しがされる」、「事故の最中に職員が違うことをやっていた」などの報道が先ずありました。住民への対策、マスコミへの情報開示のあり方、そういったものが一緒になって悪い方に向かいました。事故後しばらくして、なぜ事故が起きて、あの時運転手はどういう状態だったのかという本質の部分の議論になったが、そういうことをはじめから認め発信されていれば、あのような報道にならなかったのではないかと思います。
 災害は、発生直後に強い印象を与えるものです。後から振りかえると事実とは違うのだけれど、最初に報道された内容が最後まで印象として残ってしまう。非難や評価がそれで完結してしまうことがあります。

(災害対策は外形性が重要)
 災害対策は外形的に行う必要があると考えます。一生懸命やっているというだけでは分かってもらえない、自分たちも元気がでない。たえず目に見えるように行動をとる必要があります。
 福井県の場合、豪雨災害の災害対策本部の31回の会議を全部公開で行いました。そうすれば改めて説明する必要がない。対策本部が終わった後に質問を受けたり、マスコミの立場からの提案を受けたりしました。
 また、分かりやすくするため、気象官や自衛官にも災害対策本部に入ってもらいました。
 従来、対策本部では気象庁が発表した画面だけで判断していましたが、今回は気象台の担当の方に来てもらい解説をしてもらうようにしました。
 自衛官にも本部に常駐してもらいました。そうすることにより、自衛隊も県の災害対策本部で何をしているのか、現場で何がおこっているのかを的確に理解してもらうことができ、適切な行動をとってもらえたのです。
 災害対策の外形性は、平常時の訓練でも同じことが言えます。
 例えば総合防災訓練です。広い敷地で、各部門に分かれて訓練をやっていますが、解説がないから、今何をやっていて、次に何が行われて、何を目指しているのか、見ている方に伝わらないことが多くあります。一生懸命やっているが見学している方には何も分からない。そうしたことがないよう、今年の防災訓練では、外形性を重視し、できるだけ職員に詳しく説明をやってもらおうと思っています。

(情報システムについて)
 要避難援護者に関する情報について、特に市町村と県の間での情報共有は大事です。
 また、平常時からの訓練を通じて情報共有の機会をもち、直していくということも大切です。福井豪雨災害では、県が避難すべきであるといっているのに市町村からうまく伝わらず、住民の方が増水している川を見に行くということがありましたが、こうしたことはあってはならないことです。
 自分が災害対策をやっており、ある情報を頭に入れていると、周りも当然知っているような気になってしまします。会話を通じて情報共有の場を設けるということが大切です。
 情報を映像化するということも重要です。
 最小限度の情報を、先ず計量化、数量化する。その次に図表化、グラフ化する。そして映像化する。情報はビビットに目に見えるようにしていくこと、災害情報の高度化が必要であると考えます。
 災害において行政職員は現状だけを報告する傾向があります。
 例えば、道路は何箇所不通であるとか、家は何棟壊れたかといったことです。それに対して、誰が何をやっていて、次に何をやろうとしているのか、といった情報が非常に少ないのが実態です。対策に関する情報が少ないのです。
 情報に対しても待ちの姿勢、受け身の姿勢があるから、漠然と入ってきた情報をそれで良しとして、深く聞く姿勢や次のアクションを起こす姿勢が見られない。そうしたことも改善する必要があると考えます。

(災害時の仕事の体制について)
縦割りが最も起こりやすく、弊害の最も多いのが災害対策です。しかし、事柄の性質上たえず注意し、是正すれば弊害は最小限に抑えられます。
 防災当局、本部事務局についてですが、ここが災害時に中心となるべきですが、実務上あまり権限がありません。従って、リーダーが注意しないと全体の統制がとれない、情報が早く集まらないことになります。そうなると、総合的に事柄を捉えられなくなり様々な問題点が隠れることになります。これは災害時に避けなければならない大きなポイントの一つです。

【復旧について】知事講義

 復旧についてですが、市町村も落ち着いて取り組むことができる時期です。従って、県としては、国の応援を早く認めてもらうことが大事です。国からは大臣など視察も来るのでよく見学してもらい十分説明しました。
 国からは早く来てもらったほうが良い。時間が経つと相手の関心も薄れるし、危機的な状況も大したことがなかったように片づけられ、時間が経つにしたがって薄らいでいきます。早く現場を見てもらうことで、対策の中身も良くなります。
 復旧は放っておくと、勝手に1日1日遅れてくるので注意が必要です。各セクションは余裕をもったスケジュールを作りがちだからです。
 復興に早急にとりかかり前倒しで実施していくことで、地元も安心することが出来、マスコミも了解するものです。復旧段階では官民を問わず各セクションが責任に基づいて行う方向になるので、本部は、ぼんやりしていると、何もわからないことになることが多くなります。
 目を光らせて遅れないよう、バランスが取れるようにやることが大切です。係数を把握してコントロールすることが必要です。
 災害時は数字が大きく出がちです。思い切ってやってしまったほうが住民の方々の気持ちに応え、より早く復旧することになります。余り大きくやりすぎると財政に悪影響が出ますが、これはこのくらいであろうという基準で実行することも必要です。
 国が不十分な制度、例えば住宅に対する支援についても行いました。データのクセや出し方を見ながら、特性を見極め現場にあった対応が必要だと考えました。

【ボランティアについて】

 ボランティアという用語が法令に入ったのは、阪神・淡路大震災後、災害対策基本法を改正した際です。
 福井県では、本年3月にふくい2030年の姿というレポートを作りました。県庁の若手職員だけで、手作りで策定しました。専門家の意見を聞いたり、25年前の状況を調査し、25年後どんなことがおこるか、どうなるのかといったことを書いたものです。
 この冊子の中に、25年前の調査ではボランティアを経験したことがない県民が6割であるという調査結果があります。2001年の調査では7割が経験していると答えています。
 私自身で言えば、ボランティアといい言葉を最初に聞いたのが、30歳を過ぎたころになります。フランスで仕事に行った際のことです。
 パリの凱旋門は12本の道が通じており、信号がないから夕方には交通が混乱します。そこに、ボランティアが現われます。若者が車を降りて警察官の役割をします。数分で車がスムーズに動き始め、凱旋門前の交通状況が復旧します。これがフランスのボランティアです。
 日本の場合は団体で動いたり、行政と協働するというスタイルがあります。向こうは一人でやる。誰にいわれなくてもやる。独立志向。そういう民族がフランス人だと感じました。やがて日本にも更に新しいスタイルがあらわれるのではないかと思っています。

(福井方式について)
 災害に関して言えば、県ではボランティアについて準備がありました。平成9年のロシアタンカー油流出事故などを経て、ボランティアの先進県であると言えます。行政とボランティアが協働しており、組織の応援、多少の経費の支援、研修など平常時において準備をしているので、災害時のボランティアセンターの立ち上がりが早く、活動の範囲も広くなります。これが福井の特徴であると思っています。
 行政が弱いところを補完しながらやるということが福井方式です。全国からボランティアのリーダーが集まってもらったフォーラムなどを開催し、こうしたことを紹介しました。

【国民保護計画】

 国民保護計画を、先月、閣議決定を受け全国で最も早く策定しました。
 原子力発電所が集中する嶺南地域で、11月に訓練を行うこととしています。
 有事はこれまで起こっていないし、起こって欲しくない。しかし、有事というのは究極の災害形式ですから、訓練を実施することは極めて有効です。その成果は普通の災害のモデルになります。レベルの高い災害対応、研究は、他の災害にも有効だと考えます。
 今後、あらゆる困難な問題が自治体の中に起こってきます。マニュアルがいくつあっても間に合うものでない。職員との心構え、心意気をたえず鍛えて、ここでの研究、学問が実務に役立つよう精進していただきたいと思います。