白川静先生追悼フォーラムあいさつ

 このページは、平成18年12月16日(土)に県立図書館で行われた白川静先生追悼フォーラムでの挨拶をまとめたものです。
 フォーラムでは文字文化研究所の山本史也常務理事がコーディネーターを務めるパネルディスカッションが開催され、文学博士で社団法人倫理研究所の丸山敏秋理事長、社団法人共同通信社の小山鉄郎編集委員兼論説委員、福井新聞社の吉田哲也社長、西藤正治県教育長、柴田正子川西中元校長がパネラーとして発言しました。
 この日は漢字に興味を持つ小学生をはじめ、「白川文字学に学ぶ漢字学習講座」の受講生、教育関係者や一般の方など約200人が参加され、白川先生の偉業や人柄などを振り返り、白川文字学の継承について考えました。


一言、ごあいさつを申し上げます。

 福井出身の文化勲章受章者であります白川静先生が、10月30日に亡くなられました。このことは県民にとって大きな悲しみです。県民を代表し、また皆様とともに謹んで哀悼の意を表します。

 さて、白川先生は、明治43年に福井市の佐佳枝中町、現在の大手3丁目ですが、そこでお生まれになり、順化尋常小学校を卒業されました。
 その後大阪に出られ、法律事務所で働きながら立命館大学専門部で勉学を続け、昭和9年に24歳で文部省の教員検定試験に合格されました。中学校の先生をされながら、立命館大学法文学部を昭和18年に33歳の時に卒業されました。同年、立命館大学の予科教授、そして昭和29年に教授になっておられます。

 そして生涯にわたり中国古代文字である甲骨文字や金文を研究されました。漢字の成り立ちを探る「字統」、漢字が日本語に消化吸収される過程をたどった「字訓」、また漢字学の集大成とも言える漢和辞典「字通」の「白川字書三部作」をまとめるなど、数多くの研究・著作を次々と公に著され、中国古代人の生活と意識にまで踏み込んだ「白川文字学」を確立されました。
 白川先生の偉業について県民の皆様にぜひ広く知っていただきたいという思いから、平成14年2月に漢字研究の分野における多大な功績に対する県民の尊敬の気持ちを込めた「福井県県民賞」を先生にお受けいただいています。
 その2年後の平成16年11月に、先生は長年の学問的な業績によって栄えある文化勲章を受章をされたのであります。

  先生には本年6月にこの福井でご講演をしていただき、皆様とともに私も最後まで拝聴しました。先生は96歳のご高齢にもかかわらず非常にお元気で、お立ちのまま約2時間ご講演をされました。これが、われわれがお伺いした最後のお話ということになりました。
 先生からは、いろいろな席で生い立ちといいますか、昔のお話をお伺いしたことが思い出になって残っております。小学生の頃は、学校から帰られるとすぐに家事の手伝いをされたとか、夏休みにはお濠で木のお盆みたいなものを流して遊んだとか、廊下に出られて魚を釣られたとか、今ではあまり想像できない面白いエピソードをおっしゃっておられました。また、足羽山の継体天皇の石像の下で足羽川に向かって体操をされたというような話も伺っております。
 先生は若くしてふるさと福井を旅立たれたわけですが、強い信念と情熱を持って生涯を貫かれたそのお姿は、我々県民に郷土の至宝を持てた誇りを与えてくださったと思います。

 「白川文字学」の持ちます意義や素晴しさについては、これから今日のフォーラムでお話をいただけるでしょう。また、皆さんもそれぞれ考えをお持ちだと思います。そして第一に、白川文字学を学ぶことを通して、先生の粘り強い学びの姿勢や真摯な生き方を感じ取ることができ、我々は福井県民の自信と喜びを感じることができるのではないかと思います。
 また、先生が研究されました漢字の成り立ちや系統的な学問を学ぶことにより、我々の言葉への関心・文学への関心を深めることができ、そして日本語の言葉の基本に立ち返ることができると思います。 また、国語教育の基礎となる漢字というものを教育の場で一層魅力的で分かりやすいものにすることができることではないかと思います。
 そして東アジア共通の文化意識を、また、その互いの違いを再認識する大きな役割を持っているのではないか思っております。
 このような多くの意味において、独自の文字学体系を確立された白川先生の業績を顕彰して次代に継承していくことは、福井県の教育・文化振興にとって大きな意義を持つものです。

 県立図書館内に昨年4月に開設しました「白川文字学の室(へや)」には、毎日、子供達はもとより多くの皆さんに訪れていただき、先生の研究成果に直に触れながら、漢字を学ぶ意欲をかきたてていただけるのではないかと思いす。
 若い人たちの文字離れが叫ばれる中でありますが、白川先生の業績を未来の福井を担う若い人たちにぜひとも伝え、学問のすばらしさ、東洋の文化、漢字文字の文化の奥深さを実感できるよう、白川先生の文字学の普及・発展になお一層力を入れてまいりたいと思います。

 終わりになりますが、本日パネラー、コーディネーターの皆様をはじめ、このフォーラムにご協力を賜りました大勢の関係者の皆様に、厚くお礼を申し上げます。
 また、心からふるさと福井を愛し、私たちに確かな道しるべをお示しくださった先生の偉業を胸に、白川文字学の普及・発展を本日ご参加の皆様とともに誓いあって、ごあいさつとしたいと思います。ありがとうございます。