日本で初めてマジックテープの製造・販売を手掛けた繊維企業・クラレファスニング株式会社。“マジックテープ”の商標を持ち、アパレルからメディカル業界まで多彩な製品を生み出すリーディングカンパニーだ。福井県坂井市にある丸岡工場では操業開始以来、商品の企画・開発から製造までの一貫した生産体制を構築している。そんなクラレファスニングに平成22年1月から勤務しているのが、藤澤佳克さんだ。藤澤さんは坂井市丸岡町の出身。富山の大学で化学を学び、卒業後も富山の医薬品メーカーに化学系のエンジニアとして就職。学生時代を合わせると15年間、富山で生活してきた。
そんな藤澤さんが福井に戻ることを真剣に考え始めたのは、お子さんが生まれてから。
「僕は福井、妻は北海道出身なので、夫婦とも富山には地縁血縁がいないんです。妻も仕事を持っていたので、頼れる人のいない富山での子育ては思った以上に大変で。この先の子育ての苦労を思うと、両親や親族のいる福井へ戻ったほうがいいのかなと考えるようになっていったんです」
奥さまの後押しもあり、福井に帰ることを決意。ふるさと帰住センターを通じて出した転職希望条件は、「エンジニアとしてのキャリアを活かせ、なおかつ異業種で新たな挑戦がしたい」というもの。その希望にマッチしたのが、クラレファスニングだった。藤澤さんが配属されたのは生産技術・開発業務を担当するセクション。マジックテープはカギ状のフック面が輪っかになったループ面に引っかかることで密着する織物だが、藤澤さんはプラスチック成型によるマジックテープという新たな面テープの開発に携わる。
「以前の会社とは分野は違いますが、モノづくりという点は同じ。刺激がありますし、毎日が勉強ですね」と仕事に手応えを感じている。
プライベートでは、ご実家でご両親と同居。「福井に戻ってきて親も喜びましたし、子どももおじいちゃんおばあちゃんが一緒にいてくれて淋しくなくなったようです。のどかな環境で順調に育ってくれているのを見ると、戻ってきて良かったなと思います」。転職して時間にゆとりができたこともあり、家族と過ごす時間が増えたのも嬉しい変化だ。
中学時代の友達との交流も復活した。
「長い間離れていても、会えば昔のつきあいができるのは地元の友達の良さ。Uターン組も多いので、そういう仲間たちと集まるのも楽しみになっています」
富山では近所付き合いはほとんどなかったが、今はご近所は昔からの顔なじみ。町内の清掃活動に参加するなど、地域の一員として行動することも増えてきた。
「仕事以外で縁もゆかりもない場所で暮らすメリットは少ない。今、県外に住んでいる人も、故郷に戻る気持ちがあるなら少しでも若いうちに決断したほうがいいと思います」と自身の体験から思いを語る。
Uターンには家族の理解とサポートも大切だという。
「妻が福井に戻ろうと言ってくれたから、Uターンが実現できました。ただ、福井での暮らしも落ち着いてきたので妻も仕事を探し始めたんですが、今はなかなか厳しいですね。ふるさと帰住センターは県外在住者が対象なので富山にいる間に妻も登録しておけばスムーズに仕事が見つけられたんでしょうけど、そのときはそこまで考えが至りませんでした。これから福井に移り住む人でいずれ働くつもりがあるなら、あらかじめ登録するなど自分だけでなく家族の転職も考えて行動するとよりUターンの後の生活も軌道に乗せやすいですよ」とのアドバイスも経験者ならではだ。
Uターンを機に地域、そして家族との確かなつながりを感じるようになった藤澤さん。これからもその絆は深まっていきそうだ。
「高校生の頃は県外に出てみたくて仕方がなかったのに、いざ出てみるとあらためて福井っていいなと思うようになりました」
そう話すのは平成22年10月からクラレファスニング株式会社に勤務する清水篤史さんだ。清水さんは坂井市坂井町出身。愛知県の大学に進学し、博多の大学院へ。卒業後は京都の企業に就職した。「できれば福井で就職したかったんですが、あいにくそのときは大学で専攻していた化学系の募集がなかったんです」
清水さんが就職したのは京都の繊維会社。会社の寮で生活をする。
「通勤に約1時間、食事がつかなかったので結構大変でしたね。自炊するにしても外食するにしても福井の食に比べると劣りますし。給料は悪くなかったですが、豊かな生活とは言えなかったかもしれませんね」
福井までさほど遠くないこともあり、当時からよく帰ってきていた清水さん。「釣りやスキー、スノーボードが好きで、友達も地元にたくさんいましたから、月に1〜2回は遊びに帰っていました。そうこうしているうちに、なんとなくUターンを考えるようになっていったんです」
転機となったのが、平成19年、正月に帰省していたとき、新聞で目にした“企業魅力発見フェア”。軽い気持ちで参加し、「漠然といつかは福井に戻ろうと思っている」と担当者に気持ちを話すと、「戻るなら今のうちですよ」と背中を押された。その後は大阪で開催されるUターンセミナーにたびたび参加し、担当者とも顔なじみに。「親しみやすい雰囲気でしたので、相談しやすかったです。福井弁で話せるのも安心感がありました(笑)情報も充実していましたし、福井で仕事を探すならふるさと帰住センターが一番じゃないでしょうか」
仕事探しには紆余曲折もあった。「当初はそれなりに募集もあったのでのんびり構えていたんですが、その後、リーマンショックがあってみるみる景気が悪くなり募集も減ってしまったんです。なので、思い立ってから実際に福井に仕事が決まるまでにはちょっと時間がかかっていまいました。これからUターンを考える人には、帰ると決めたら悩まずに行動することをおすすめします」と実体験からのリアルな本音ものぞかせる。
繊維会社に勤務していたキャリアを買われ、現在の会社へ。所属は開発部。新製品開発や生産技術を担当する。
「今は厳しい時代ですし、転職を経験したことで自分自身をもっと磨かないとと思うようになりました。通勤時間も短くなり時間に余裕もできたので、これからは資格取得や語学などスキルアップの勉強もしていきたいですね」と意識もより前向きに変化した。
福井の良さをあらためて聞いてみると「豊かな自然が身近にあるところですね。僕はアウトドアの趣味が多いので、海も山も近くにある福井は嬉しいですね」
今後は海や山でのボランティにも参加したいと話す。「以前から重油流出時のボランティアや海のゴミ拾いなど、海をきれいにする活動には参加していました。福井の自然は誇れるものですし、今後も自分にできることで地元を良くしていければ」と、郷土愛も深まっている。
また、近い将来には結婚も考えている。「福井は出産費用の支援金があったり、子育てしやすい制度が整っていると聞いています。家庭を持って、子どもを育てていくには良い環境なんじゃないでしょうか」
今の暮らしに、お金では得られかった“心の豊かさ”を実感しているという清水さん。公私とも充実した毎日を楽しんでいる。