「はたや記念館ゆめおーれ勝山」は、由緒ある繊維工場の建物を保存・整備して、平成21年にオープンした勝山の新名所。その一角にある「たまご工房エグエグ」は、ロールケーキなどのスイーツが評判のカフェスポットだ。
経営者の桝家次郎さんは、勝山市の生まれ。県内の調理師専門学校を卒業した後、修業のため東京のレストランに勤務する。
「給料は8万円で家賃は2万円。4畳半で風呂なしトイレは共同です。修業だから我慢できたけど、隣の人の顔も知らない生活でした」
その後、店を移りながら修業を続けてきた桝家さんに転機が訪れたのは、28歳の時。持病の手術・治療のため帰福し、6ヵ月の入院生活を送ったことが桝家さんの人生観をガラリと変えたのだ。
「東京では孤独でしたが、福井では昔の友達が見舞いに来てくれるし、病院の人たちのやさしさも身にしみた。自分は一人で生きているんじゃない。ちゃんと働ける年代のうちに地元で働いて恩返しをしたいと思うようになりました」
回復後は勝山市内のホテルの調理場に勤務。職場恋愛で結婚し、地元に根を張るうちに「ここで店を持ちたい」という思いが募り、帰郷して8年後、勝山市内に遊食ダイニングキッチン「厨ぼうず」を開店する。
「こっちは家賃や地代が安いので、ハード面では店を構えやすい。ただ、人口が少ないので繁盛させるには工夫が必要ですね」
桝家さんは修業で修得したフレンチをベースに、和のテイストをプラス。勝山水菜など地元の食材も取り入れて、まちの人々に親しまれる店のスタイルをつくりあげた。店が軌道に乗り、2店目としてオープンしたのが冒頭で紹介したカフェ。こちらでも地元の若猪野(わかいの)メロンを使ったドリンクをメニューに加えるなど、地元色をうまく活かした店づくりを成功させている。
勝山市には桝家さんと同じようにUターンして商売をしている人がいる。そんな異業種のメンバーで結成したのが、桝家さんが代表を務める「らぶ勝」。勝山を愛する起業家グループで、手書きマップを作成したり歳の市に出店したり多彩に活動中だ。
「らぶ勝以外にも、PTA活動にも積極的に参加。身近な仲間とのつながりは心強いし、前向きに頑張る力になります。地元ならではのネットワークですね」
また、家族を持ち、子育ての面でも環境の良さを実感。
「なんといっても豊かな自然が身近にある。勝山は雪深いですが、市が除雪に協力的ですし支障は感じません。僕自身スキーが好きですし、子どもにも“雪は楽しい”と教えたいですね」
一度地元を離れ都会での生活を体験したことも、勝山の魅力の再発見につながっているという。
「東京はお金と時間があれば楽しい街。刺激的だし楽しいことも多いけど、そのぶん誘惑も多いし、家賃などの経済的負担も大きい。住みやすさや人とのつながり、子育て環境など、この先の人生を長い目でみれば勝山に戻ってきて良かったと思っています」 勝山という環境で、いろんな人と支え合いながら暮らす生活スタイルを選択したことが、仕事・プライベートの両面で桝家さんの原動力になっている。