「以前から定年後には自給自足の暮らしがしたいと思っていました。美浜町はそんな夢を実現できそうな場所だと感じたんです」
そう話す上野禎知さんは、大阪府枚方市の生まれ。有線放送会社の営業マンとして働き、異動や結婚に伴って宇治、東大阪と京阪エリア内を転々としながら生活してきた。
美浜町に定住することになったのは、奥様のお母さんからの相談がきっかけだった。
「美浜町にある妻の母の生家が、祖母が亡くなって以降空き家になっていまして。このままでは忍びない、できれば家を継いでもらえないかとお母さんからお願いされたんです」
それまで美浜には来たことがなくどんなところかも知らなかったが、この話を機に遊びに来て、美浜の魅力を実感することに。
「ご飯も魚も野菜も何を食べてもおいしくて、とても好印象でした。何度か遊びに来るうちに、ここで農業をして暮らしてみたいと思うようになったんです」
平成13年の夏に美浜に移住、14年からは実際に農業を開始する。しかし、就農に至るまでにはかなり苦労したという。
「農業をしたいという思いだけで美浜に来てしまい、充分な知識を持っていなかった。米作りの仕方もわからなかったし、どのくらい作れば儲かるかもわからない。今思えば無謀でしたね(笑)」
突破口となったのが、毎年11月に開催される「美浜産業祭」。地元の農林水産物の展示・即売を行う美浜町の一大イベントで、農業関係者も多数参加する。上野さんが会場の一角に設けられた農業相談コーナーで、新規就農希望だと告げると担当者が親身に相談に乗ってくれ、研修先の紹介をしてくれることに。研修先で徐々に知り合いを増やし、2年後には周りの協力を得て独立。初年度は6haの田んぼからスタートし、翌年には10ha以上に。田んぼを若い人に任せたいという農家の紹介を受けながら規模を広げ、今では23ha、美浜町で5番目の広さにまで拡大した。
「人を雇うのは大変なので、農繁期には大阪から実家の父に手伝いに来てもらっています。父も畑づくりが趣味なので喜んでいますね。あと、人手が足りないときはシルバー人材センターを活用したり、こういったアドバイスも地元の農家の方からいただき、助けられています」
現在、上野さんは奥様と3人のお子さんとの5人暮らし。大阪時代は営業職で帰りも遅かったが、今は家族と過ごす時間が増えたのが嬉しいと笑顔を見せる。
政治に対する意識が変わったのも大きな変化だ。
「大阪だと議員の人が遠い存在で、あまり政治に興味が持てず、選挙も1回しか行ったことがなかったんです。でも美浜では町長や町議員の人とも顔見知りだったり、政治がすごく身近。自分の言ったことが反映されるかも、と思うと選挙にも積極的に行くようになりました」。
青年会や中年会など地元の集まりに参加するのも、美浜で生活するようになってから。若手農家のメンバーとの飲み会にも参加したり、地域の祭など各種団体活動にも取り組む。
「ただ農業や漁業がやりたいというだけで美浜に移り住むのは難しい。自分から人付き合いをしていってはじめて地域に馴染んでいける」というのが経験からの思いだ。
平成22年で農業は7作目、アキサカリやイクヒカリなどの新しい品種や蕎麦づくりにも挑戦したいとますます意欲的。将来はより本格的な自給自足生活をめざしたいという夢を心に、地域に根を張った美浜暮らしを満喫している。