「ふくい暮らし」を楽しんでいる、先輩たちの声です

「何かをつくりたい」その一念が、福井という地で農業をはじめるきっかけでした。平岡貴志さん(Iターン)

平岡貴志さん 坊主頭で、まるで少年のような笑顔で出迎えてくれた平岡さん。平岡さんは東京練馬生まれ。20歳前には実家から独立し就職したが、本当にやりたいことなのかという疑問を抱き、その後自分探しの旅に出る。野山で生活し様々な体験をしながら、あるときふっと「無」になったそうだ。その直後「つくりたい」という想いが心の中に湧き上がってきた。応えはシンプルだった。「食べ物をつくり、育て、暮らしていきたい。」という人間の本能そのものだったのだ。目標を手にしたあとは早かった。とにかく動く。西日本を中心に、農家、農園を訪ね歩く新しい旅が始まった。

「あの頃は、こんなところで暮らしてみたい、というプランもありましたが、やがて、それって自分勝手な話で、自分の置き場所を決めるのは縁なのだということに気づいたのです。」平岡さんは当時を思い起こすように話す。そんな旅の途中、平岡さんは若狭町にある「かみなか農楽舎」を知り、福井県に向かうことになる。「かみなか農楽舎」とは、農業、自然、環境に興味がある全国の若者を受け入れ、農業研修を通じて町を好きになっていただき、将来は就農し住んでいただこうという、若狭町が進めている施策。

平岡さんは、朝から作業をやる気満々で「かみなか農楽舎」の門を叩いた。すると、作業着ではなくジャージ姿の男性が現れたのだ(かみなか農楽舎:栽培責任者・下島さん)。下島さんが言うには「今日は地区の体育祭だから、農業は休み、まあせっかくだからあなたも参加していきなさい。」と、訳もわからず体育祭に参加した平岡さん。体育祭が終了すると「直会(神事・政などのあとに頂く食事の会)」にも呼んでいただきお酒を酌み交わしながら、もてなされたらしい。平岡さんが温かな町と人々に感激したことは言うまでもなく、そのまま1ヶ月の基礎研修に入る。1ヶ月はあっという間に過ぎ、次に2年間の農業講習を受ける。その間「かみなか農楽舎」では、機械を使った現代農業、手植え手狩り、稲架がけの手順や、野菜、花、お茶、炭づくり、鶏、猪の解体など、就農に必要なあらゆる知識、技術を教えてくれる。また、地元以外の人たちとコミュニケーションをとるために、いろんな行事も積極的に行っている。

研修中、稲架がけで天日を一杯に浴びた米のおいしさに驚いた平岡さんは、独立して現在は立派なプロの専業農家。無農薬、減農薬にこだわり、稲架がけの稲づくりを行っている。
「私の若狭での暮らしは、人と人のつながりで成り立っています。」平岡さんは言い切る。「人間はひとりでは寂しいと思い、四六時中誰かと一緒だと煩わしいと思う生きものです。でも、ここにいると、誰かは誰かのために生きている、私も誰かのために生きている。人間関係が、そんな温かな関係に思えてくるのです。収穫があれば、ご近所へ持って行きます。お返しに、花や手料理、お魚をいただきます。仕事も忙しければ、手伝いに行ったり、来ていただいたり。若狭の皆さんには、心から感謝しています。自分のやりたい事、好きな事は忘れません。自分の好きな事をしていくのですが、それが自分勝手にならぬよう、またその中で自分なりの、自分にしかできない「人の為」をしていきます。そんなことの繰り返しで、ますますしっかりとこの地に根を張って暮らしていきたいと考えています。」

農作業で真っ黒に日焼けした平岡さんの満面の笑みは、力強く、若狭のパワーがみなぎっていた。