あるサラリーマン・コレクションの軌跡
〜戦後日本美術の場所〜
1 主旨
出会ったとき、私の心に触れたもの
世の中にはすごいサラリーマンがいます。
20代の後半、美術にめざめ、以来40年間に集めた作品は、なんと1000点以上。遺産があったわけでも、株で大儲けしたのでもありません。すべては、サラリーマンの小遣いをやりくりして買ったものです。もちろん、仕事は人並み以上にこなしてのことです。これだという作品に出会うまで、休日の全てを使って個展を回ります。信じるのは自分の直感だけ。名の知れた巨匠はとても高くて手が出ません。自然に、若い作家が気になり始め、現在活躍している作家の初期の名作がたくさん集まりました。「出会ったとき、私の心に触れたもの」。これが作品を買う唯一の方針です。そのため、日本画、洋画、版画、写真、現代美術まで、あらゆるものが平等です。ジャンルの境界から自由なアートたちは、生き生きとしています。静かに語りかけてくるような作品が多いのも、このコレクションの特質です。一般にはあまり知られていない、力のある作家たちの作品も目を引きます。なかには、とても貴重な戦争画も含まれています。実は、このサラリーマンは美術資料の収集家として美術界では知らぬ人のない人物でもあるのです。
大企業や美術館とは異なるコレクションの小宇宙は、わたしたちを幸せな気持ちにしてくれます。個人とアートとの豊かな関わりをみせてくれます。一人のサラリーマンが、勤めのかたわら、築きあげた驚きのコレクションを是非ご覧ください。
会場はコレクターの家を訪ねる趣向で構成。入り口でインターホンを押すところからスタートします。気に入った作品1点に投票する、人気投票も好評です。
【出品作家】
安斎重男、池田満寿夫、石川順惠、井口大介、磯辺行久、磯見輝夫、井田照一、井上長三郎、上前智祐、榎倉康二、太田三郎、大畠裕、大森運夫、大矢雅章、岡村桂三郎、オノデラユキ、郭徳俊、梶喜一、片岡球子、桂ゆき、加藤泉、加納光於、河口龍夫、河原朝生、川俣正、菊地武彦、北籔和夫、木村光佑、草間彌生、鞍掛徳麿、黒崎彰、黒崎俊雄、桑原正彦、桑山忠明、合田佐和子、合田ノブヨ、小嶋悠司、小松均、小山正太郎一派、斎藤智、斎籐隆、斉藤嗣火、斉藤美奈子、坂本善三、佐熊桂一郎、塩川文麟、塩見暉夫、嶋田美子、清水登之、白井昭子、白木正一、末松正樹、菅木志雄、須田剋太、関根伸夫、千崎千恵夫、高島野十郎、多賀新、高橋克之、高松次郎、高山徹、高山登、竹田和子、辰野登恵子、館勝生、田中田鶴子、中川幸夫、中西夏之、中林忠良、中原浩大、中村宏、野田哲也、浜田浄、半田強、彦坂尚嘉、日和崎尊夫、伝・藤田嗣治、古沢岩美、星野眞吾、堀尾貞治、堀浩哉、眞板雅文、間島領一、増田誠、松谷武判、松本旻、三上誠、三島喜美代、向井潤吉、村井督侍、杢田たけを、森光子、森野眞弓、森村泰昌、森山知己、八木岡春山、山下菊二、山本弘、吉原芳仙、李禹煥、和田賢一、アンリ・ミショー、ラインハルト・サビエ
ほか【出品作品】
134
点及び戦争画関連資料
2 展覧会名
あるサラリーマン・コレクションの軌跡
〜戦後日本美術の場所〜
3 会期 平成
16年3月5日(金)〜28日(日)休館日:月曜日
4 会場
福井県立美術館
福井県福井市文京
3-16-1 TEL:0776‐25‐0452
5 開場
午前
9時〜午後5時まで(入場は午後4時30分まで)
6 主催
福井県立美術館
7 後援
福井新聞社
8 観
覧 料一般
800円 ・大高生 500円 ・中小生 300円(
30名以上の団体は2割引)9 関連事業
コレクターと語る会
3
月20日(土) 午後2時〜3時30分本展のコレクター本人がコレクションの秘密を語ります。
(聴講無料)
担当学芸員によるギャラリー・トーク
毎週日曜日 午後
2時〜3時(展覧会チケットが必要です)
10
同時開催所蔵品によるテーマ展「人間の表現」
(本展チケットにてご覧いただけます)
【参考資料】
サラリーマン・コレクターからのメッセージ
巷の著名作家の大作中心の王道コレクションに対するならば、一サラリーマンであった私のコレクションはさしずめローカルな小品コレクションともいえる。私の家族が、これらのコレクションを指して“ガラクタコレクション”というのに、どこかで私自身納得しているのも以上の理由による。勿論このガラクタとは、家族の心情的なもので、作家や、作品を指していっているのではないことはいうまでもない。
* * *
一貫して私の興味のおもむくままに、ジャンルも特定せず、出会った際に「私の心に触れるもの」に限定している。振り返ってみて作品の持つ「素朴さ」「情緒」と「感動」が私の収集の柱となったように思う。こうした方針だけに、作家の名前で選ぶということはしなかった。
展覧会の特長
展示作品には、以下のように、コレクター本人のユニークな解説がつきます。
高島野十郎「青いリンゴ」
1953年天野書店に立ち寄り、向かいに古美術店が開店したと聞き覗く。ろくなものがなく立ち去ろうして、入り口の近くの紐で縛ってある額縁に気付き、見せてもらったところ、マチエールの堅牢なしっとりとした静物の良品があり、名前で野十郎の真筆と咄嗟に判断、値段を聞いたところ
3万とのことで驚き「エッ」といったら2万でいいと値引き。手元の2万を払い作品を受け取り、古美術店前の天野書店に一時保管を依頼し預けそのまま銀座に出た。夜家に帰り手元資料で調査したところ間違いないと判明。
川俣正「ベニスビエンナーレのための
Plan」1982年川俣がベニスビエンナーレに出品する事になり、その資金作りのため個展開催したが、ドローイングを7点東京現代美術館が購入したのみで、プラン・マケットが売れず困っていた。作品も気に入ったので4点まとめて購入協力。購入直後、美術に縁の薄い娘婿が玄関先でこの絵を見て名前を覚え、暫く立って「フォーカス」誌に掲載された川俣の記事を「あの作家では?」と示され驚いた。
半田強「葱坊主」
1976年小田急で第1回半田強個展予告の展示作品を見て驚き、展覧会をみてさらに驚く。圧倒され、値段を聞いたら作家が手元に置きたいといっていたとのことであったが、将来手放すおりには作家が買い取る条件で購入。一見田舎道で出会いそうな雰囲気であるが、風貌からただ者でない何かが感じられる。一見したら忘れられない強烈なドラマチックな印象を観者に与える作品。